SDM(Shared Decision Making:共同意思決定)は、患者さんと医療者が「情報」と「価値観」を持ち寄り、納得できる選択を一緒につくる考え方です。
新人〜中堅のOT/PT/STにとっては、説明はしているのに「結局、同意書を取るだけで終わってしまう」「患者さんの迷いが残る」といった場面で、SDMの枠組みが役立ちます。
一方で、SDMは万能ではなく、緊急性が高く時間的猶予がない場面や、医学的に選択肢がほぼ一つに収束する状況では、適用の仕方に工夫が必要です。
本記事では、SDMの定義とインフォームドコンセントとの違いを整理したうえで、臨床で使いやすいプロセス(代表モデル)と実装のコツを解説します。
さらに、SDMを「やっているつもり」で終わらせないために、ガイドラインの要点と、評価指標(尺度名)を具体的に紹介します。
読後には、患者さんの価値観を引き出し、選択肢を見える化し、合意形成までをチームで回すための見取り図が得られるはずです。
SDM(共同意思決定)とは:定義と臨床で重視される理由
SDM(Shared Decision Making)は、患者さんと医療者が意思決定に共同で参加し、医学的情報(選択肢・利点・不利益・不確実性)と、患者さんの価値観(大事にしたい生活、受け入れ可能な負担、優先順位)を統合して選ぶプロセスです。
ポイントは「患者さんが何を大切にしているか」を意思決定の中心に置くことで、医療者の説明だけでなく、患者さん側の判断材料と納得を増やすことにあります。
特に、どの選択肢にも一定の利点と不利益があり、価値観によって最適解が変わる意思決定(いわゆるpreference-sensitive decision)では、SDMが有効とされます。
リハビリ領域では、治療手段の選択だけでなく、目標設定、生活上の優先順位、セルフマネジメント、復職・復学の選択など、患者さんの人生に直結する意思決定が多く、SDMとの親和性が高いです。
一方で、緊急性が高く迅速な介入が必要な場面や、医学的に選択肢がほぼ一つに収束する状況では、SDMの「対話の深さ」を状況に合わせて調整する必要があります。
したがって、SDMは「時間をかける技法」というより、「合意形成の質を上げる枠組み」と捉えると、臨床実装が現実的になります。
SDMとインフォームドコンセントの違い:対立ではなく補完関係
インフォームドコンセント(IC)は、治療・検査などの実施前に、必要な情報(目的、方法、利益、不利益、代替、予後など)を説明し、患者さんが理解したうえで同意することを確認するプロセスです。
ICは法的・倫理的な側面が強く、「情報提供と同意の取得」が中心になりやすい一方で、患者さんの価値観の掘り下げや迷いの整理まで十分に扱えないことがあります。
SDMは、情報提供に加えて、患者さんの価値観・生活背景・許容できるリスクや負担を言語化し、複数の選択肢を比較しながら一緒に選ぶ「対話プロセス」を重視します。
臨床では、SDMを丁寧に行うことで、結果としてICの質(理解、納得、同意の実質)が高まることが多く、両者は対立概念ではなく補完関係にあります。
たとえば、同意書にサインがあっても「本当は迷っていた」「生活上の不安が残っていた」というケースは、ICだけで完結してしまったサインかもしれません。
ICを「最低限の要件」、SDMを「納得と実行可能性を高める設計」と位置づけると、現場での使い分けがしやすくなります。
SDMの代表的プロセス:3-talkモデルとSHAREアプローチを臨床に落とす
SDMには複数のモデルがありますが、臨床教育で参照されやすいものに「3-talkモデル」と「SHAREアプローチ」があります。
3-talkモデルは、チームとして意思決定に取り組むことを示す段階(Team talk)、選択肢を提示し比較する段階(Option talk)、価値観を踏まえて決定する段階(Decision talk)という3つの対話で整理します。
SHAREアプローチは、選択肢を探す、利益と不利益を理解する、価値観を評価する、決定に到達する、決定を評価するという流れで、説明の抜けを点検しやすいのが利点です。
OT/PT/STの現場では、この「対話の中核」に加えて、実施後のフォロー(やってみて合わなければ再調整する)まで含めて回すと、SDMが現実的に機能します。
つまり、SDMは一回で完結するよりも、介入の進行に合わせて「再び選び直す」循環型プロセスとして運用されることが少なくありません。
まずは、次の表のように、モデルの要点を共通言語としてチームで共有すると、実践のブレが減ります。
| 枠組み | 主な段階 | 現場での使いどころ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 3-talkモデル | Team / Option / Decision | 短時間面接でも「対話の核」を外さないチェック | 選択肢提示(Option)で情報過多にならない工夫が必要 |
| SHAREアプローチ | 探す→理解→価値観→決定→評価 | 説明の漏れを点検しやすく、教育にも向く | 「価値観の言語化」が弱いと形式化しやすい |
| 循環型運用(実装) | 対話→実施→フォロー→再調整 | リハの長期支援(目標・手段・頻度の見直し)に合う | 再評価のタイミングを決めておかないと流れる |
ガイドラインと意思決定支援ツール:導入の要点と落とし穴
SDMの実装では、「対話の技術」だけでなく、組織としての支え(時間配分、情報提供の仕組み、ツール整備、研修)が重要になります。
たとえば、海外ではSDMを推進するガイドラインが整備されており、リスクコミュニケーションの工夫、患者さんが理解しやすい情報提示、意思決定支援ツール(Patient Decision Aid)の活用、医療者のトレーニングなどが強調されています。
意思決定支援ツールは、選択肢の比較や、利益・不利益・不確実性をわかりやすく提示し、患者さんが自分の優先順位を整理できるようにする資料の総称です。
ここで大事なのは、ツールは「説明の代替」ではなく「対話の補助」だという点で、ツールを渡すだけではSDMにはなりにくいことです。
また、情報を盛り込みすぎると、患者さんがかえって迷い、意思決定の負担が増えることがあるため、説明量と理解度のバランス調整が欠かせません。
現場導入では、次のチェックポイントを押さえると、形式化を防ぎやすくなります。
- 選択肢が本当に複数ある場面か(価値観で最適解が変わるか)
- 利益・不利益・不確実性を、患者さんの理解に合わせて提示できているか
- 患者さんの「大事にしたいこと」を具体的に言語化できているか
- 家族・支援者の関与(同席・情報共有)の扱いを整理できているか
- 実施後に見直すタイミング(再評価の時期)を決めているか
SDMの評価指標:何を測るかと代表的尺度(SDM-Q-9/OPTION/CollaboRATE/DCS)
SDMは「良い話し合いができた気がする」で終わりやすいため、評価指標を持つことが実装の質を上げます。
評価の観点としては、患者さんの知識(理解の増加)、満足度、意思決定の葛藤(迷い・不安)、対話の質、患者さんの関与度などが挙げられます。
これらを測る代表的尺度として、患者さん視点ではSDM-Q-9やCollaboRATE、医療者・観察者視点ではOPTION(OPTION12/OPTION5など)、意思決定の葛藤にはDecisional Conflict Scale(DCS)などが知られています。
なお、「どれが世界で最も汎用されているか」は領域や研究目的で変わりやすいため、本記事では「代表的で参照されやすい尺度」として紹介します。
臨床での使い方としては、研究目的で厳密に測るだけでなく、チーム内の振り返り(面接の質改善)に短い尺度を使う方法も現実的です。
尺度選択は、評価の目的(教育、質改善、研究)と、観察者評価か患者報告か(PRO)をまず決めると迷いにくくなります。
| 尺度名 | 評価者 | 何を測るか(概要) | 現場での使いどころ |
|---|---|---|---|
| SDM-Q-9 | 患者 | SDMプロセスの実感(9項目) | 面接後の簡易フィードバック、教育・質改善 |
| SDM-Q-Doc | 医療者 | SDMプロセスの自己評価(9項目) | 患者視点とのギャップ確認、振り返り |
| OPTION(例:OPTION12/OPTION5) | 観察者 | 患者関与を促す行動の有無・程度 | 面接スキル評価、教育・研修での客観評価 |
| CollaboRATE | 患者 | SDMの核心行動を3項目で簡便に測定 | 忙しい外来・病棟での短時間評価 |
| Decisional Conflict Scale(DCS) | 患者 | 意思決定の迷い・不安・確信の程度 | 迷いが強い場面の把握、支援の必要性の検討 |
実践でつまずきやすい課題と対策:情報過多・時間制約・参加困難への対応
SDMの課題としてよく挙がるのは、情報過多、時間とリソースの制約、医療者側のスキル差、患者さん側の参加意欲や健康リテラシー、文化的背景や社会経済的要因です。
情報過多への対策は、選択肢を無理に増やすのではなく、患者さんにとって現実的な選択肢に絞り、「何が違うのか」を比較できる形で提示することです。
時間制約が強い場面では、初回にすべてを決めようとせず、まず「価値観の確認」と「次に決めることの合意」まで進め、次回に意思決定を持ち越す設計も有効です。
患者さんが「全部お任せしたい」と言う場合でも、完全に委ねるかどうか自体が価値観なので、少なくとも「何を一番避けたいか」「何を守りたいか」の確認は役立ちます。
認知機能低下や理解困難がある場合は、家族・支援者の同席、情報提示の簡略化、選択肢を段階的に扱うなど、参加のハードルを下げる工夫が求められます。
大切なのは、SDMを「理想の対等な対話」に固定せず、患者さんの状況に合わせて参加の形を調整しつつ、価値観を意思決定に反映することです。
まとめ:SDMを「同意取得」から「納得と実行可能性の設計」へ
SDM(共同意思決定)は、患者さんと医療者が情報と価値観を統合し、納得できる選択を一緒につくるプロセスです。
インフォームドコンセントは重要ですが、SDMはそれを補完し、迷いの整理や価値観の反映によって、意思決定の質を高める枠組みとして機能します。
代表的モデルとしては3-talkモデルやSHAREアプローチがあり、リハ領域では実施後のフォローと再調整まで含めた循環型運用が現実的です。
ガイドラインや意思決定支援ツールは、対話を支える仕組みとして有効ですが、ツール配布だけでSDMが成立するわけではない点に注意が必要です。
評価では、SDM-Q-9/SDM-Q-Doc、OPTION、CollaboRATE、DCSなどの尺度を目的に応じて使い分けると、「やっているつもり」を減らせます。
まずは「価値観の確認」「選択肢の比較」「次に何を決めるかの合意」の3点を意識し、短時間でも回せるSDMから始めるのが実装の近道です。

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