かなひろいテストは、短時間で「視覚探索」と「注意機能」を評価できるスクリーニング検査です。
加齢に伴う注意・判断・記憶の変化を捉える場面だけでなく、作業療法の臨床では 早期の認知機能低下の気づきや、注意障害の特徴把握にも役立ちます。
本記事では、作業療法士が臨床で迷わず活用できるように、目的→対象→実施手順→解釈→生活への落とし込み→併用評価→チーム共有→Q&Aの順で整理して解説します。
目的:まず「何を知りたい検査か」を決める
かなひろいテストは、主に次の力を短時間で把握するために用いられます。
- 視覚的な探索(視覚探索能力)
- 注意の持続(持続性注意)
- 必要な情報を拾う力(選択的注意)
初回評価でこれらを押さえておくと、支援計画の精度が上がります。さらに、経時的に実施して結果をSPDCAで見直すことで、介入プログラムを「より個別性の高い内容」に更新しやすくなります。
対象:疾患名より「困りごと」起点で考える
かなひろいテストは実施しやすく、スクリーニングとして導入しやすい検査です。臨床では対象が広く、たとえば以下のケースでよく使われます。
- 高齢者
- 認知症が疑われる方
- 高次脳機能障害が疑われる方
- 運転能力評価が必要な方
医療機関によっては、脳ドック受診者に組み込んで包括的に評価している例もあります。
実施手順:手軽でも「標準化」が大事
スクリーニング検査だからこそ、教示・順番・時間がブレると解釈が難しくなります。最低限、手順は一定にしておきましょう。
準備物
- 検査用紙(無意味綴り・物語文)
- 鉛筆
- ストップウォッチ
① 目的とやり方を説明(観察も同時に)
「何をするテストか」「どうやるか」を簡潔に説明します。
この時点で、理解の程度・不安・構え・注意の向け方なども観察しておくと、後の解釈に役立ちます。
② 例題でルール理解を確認
例題は本番と同形式ですが短く簡単です。
ここでルール理解が不十分なら、説明を追加して理解を促します。
③ 本検査(順番は固定がおすすめ)
無意味綴り → 物語文の順で実施します。いずれも制限時間は2分です。
- 無意味綴り課題
ランダムに並んだひらがなから、**「あ・い・う・え・お」**を見つけてチェック。 - 物語文課題
意味のある文章を読みながら、同様に**「あ・い・う・え・お」**をチェック。
さらに「文章の内容も理解しながら行う」よう伝えます(=二重課題)。
④ 採点
採点は大きく2点です。
- 正しくチェックできた数
- 無意味綴り:60個
- 物語文:61個
- 物語文の内容把握(有意味文のみ)
- 内容理解が十分:10点
- 一部不正確:5点
- 内容把握なし:0点
結果の解釈:量(数値)+質(行動)のセットで見る
かなひろいテストは、定量(点数)だけでも一定の評価はできます。
ただし作業療法の臨床では、生活に結びつけるために**定性的所見(取り組み方・エラーの特徴)**が重要になります。
1)定量的解釈(スコアで見る)
① 正答数
正答数が多いほど、注意・探索・文字認識のパフォーマンスが高い可能性があります。
- 無意味綴り:視覚探索・文字識別の要素が強い
- 物語文:言語理解+注意(=二重課題)
年齢別の平均値と比較することで、同年代に対して「低下が疑われるか」を考えます。
正答率の出し方(例)
- 無意味綴り:60個中の正答数
- 物語文:61個中の正答数
正答率 =(見つけた文字数 ÷ 総数)× 100
例:無意味綴りで30個なら、(30 ÷ 60)×100=50%
年齢別評価(参考)
- 30歳代: 42点
- 40歳代: 38点
- 50歳代: 33点
- 60歳代: 24点
- 70歳代: 17点
- 80歳代: 10点
注:金子教授グループの報告を参考。
② 到達数
「どこまで進んだか」「どれだけ作業量を確保できたか」を反映します。
到達数が少ない場合は、処理速度低下や集中の途切れ、作業の立ち上がり不良なども疑います。
③ 正答率(正答数 ÷ 到達数)
正確さ(ミスの少なさ)を示す指標です。
正答率が低い場合は、注意散漫・誤認・焦り・衝動性などの可能性を検討します。
④ 見落とし数(到達数 − 正答数)
「拾えるはずのものを落とす」傾向を把握します。
持続性注意や選択的注意、疲労の影響などを考える際に便利です。
⑤ 内容把握(物語文のみ)
文章理解・記憶・推論を含む「統合力」を反映します。
物語文の点数が低い場合は、二重課題負荷の影響も含めて解釈します。
2)定性的解釈(取り組み方で見る)
臨床で特に押さえたい観察ポイントを整理します。
- パフォーマンスの一貫性(途中でガクッと落ちる/波が大きい)
- 作業速度の変化(前半は速いが後半で失速=疲労・持続性注意)
- エラーパターン(特定の文字だけミスが多い/似た形で混乱)
- 文脈理解(内容把握の説明が曖昧/細部に固執する 等)
- 作業方略(行ごとにスキャン/飛ばし読み/ランダム探索)
- 自己修正能力(誤りに気づく・戻れる・修正できるか)
- 視覚的走査パターン(偏り・見落としの出る場所・視線の動き)
- 二重課題能力(物語文)(読む+探すの同時処理の崩れ方)
- 口頭指示への従い方(指示の取り違え、途中でルールが変わる等)
- 疲労・焦りの兆候(ため息、苛立ち、自己否定、スピード優先など)
他検査との併用:スクリーニングを“臨床情報”にする
かなひろいテストは単独でも使えますが、併用すると「どこが弱いのか」が明確になります。
- MMSE:全般性+かなひろいで前頭葉/注意の弱さを補う
- TMT:処理速度・視覚探索の側面を補強
- WCST / BADS:遂行機能の多面評価
- WMS-R / RBMT:注意と記憶の関係を整理
- TBI-31:日常行動への影響をチームで共有しやすい
- WAIS(符号など):注意+精神運動速度の整理
- CDT:視空間・計画性の補完
結果を生活へ落とし込む:評価を“支援の言葉”に変換する
かなひろいテストの解釈は、生活の困りごとへ翻訳して初めて価値が出ます。
注意機能
- 持続性注意が弱い:午後にミスが増える/作業の後半で崩れる
- 選択的注意が弱い:雑音下で会話が追えない/買い物で目的物を探せない
処理速度
- 身支度・調理・段取りが遅い
- 会話のテンポについていけない
遂行機能
- 計画が立てにくい/優先順位がつけにくい
- 変更に弱い/固執が出る
視覚探索
- 書類や棚から必要な情報を見つけるのに時間がかかる
- 標識・案内の読み取りが遅い
二重課題
- 料理しながら会話が難しい
- 運転+ナビ理解が苦しい
疲労
- 外出や連続予定でパフォーマンスが落ちる
- 休憩の入れ方が支援ポイントになる
チーム共有:OTが伝えるべき“臨床で使える情報”に整える
他職種へ伝える時のコツ
- 専門用語を減らし、生活場面の例で説明
- 数値だけでなく、**観察所見(どこで崩れたか)**を添える
- 「支援するとしたら何が有効か」を1~2行で添える
カンファレンスで活かす
- 結果を表や箇条書きで提示(短く)
- 介入の方向性(環境調整/手順化/休憩設計など)を示す
- 再評価のタイミングを共有する
記録の工夫
- エラーの種類(見落とし/誤チェック/自己修正の有無)
- 速度変化、疲労、方略、指示理解などの観察事項
- 非標準環境なら「どこが違ったか」を明記
Q&A(よくある臨床の悩み)
Q. 読み書きが苦手な方には?
- 説明は短く、ゆっくり
- 文字サイズ・コントラスト調整
- 必要なら別検査と併用し、総合判断へ
Q. 本人・家族が結果に納得しない
- テストの目的(診断ではなく、傾向把握)を先に説明
- 「一時点で変動しうる」ことを明確にする
- 生活での具体例とつなげて話す
- 必要に応じて再検査や別評価を提案する
Q. 標準化された環境が用意できない
- 騒音・視認性・姿勢の確保を優先
- 環境の違いを記録し、解釈に反映する
- 次回評価と比較できるよう条件を残す

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