障害受容のプロセスを比較:キュブラー=ロス・フィンク・ションツ・コーンのモデルの違いと臨床での使い分け

病気や怪我で障害を負ったとき、頭では理解していても、気持ちが追いつかないのは自然な反応です。
現状を「受け入れる/受け入れない」を二択で捉えると苦しくなりやすく、実際は揺れ戻りを含む“適応のプロセス”として進みます。
その見取り図として役立つのが、段階モデル(ステージモデル)です。
ただしモデルは「全員が同じ順で進むルート」ではなく、「今どの辺りでつまずきやすいか」を推測する地図のようなものです。

本記事ではキュブラー=ロスを軸に、フィンク・ションツ・コーンのモデルを比較し、臨床での使い分けまで整理します。

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キュブラー=ロス:死の受容モデル(5段階)

モデルの位置づけ

キュブラー=ロスのモデルは、本来「死」や重大な喪失に直面したときの心理反応を段階として捉える枠組みです。
医療現場では、死別だけでなく「健康・役割・生活の喪失」にも応用され、障害受容の理解にも援用されてきました。
特徴は、感情のうねりを「否認→怒り→取引→抑うつ→受容」と言語化できる点にあります。
一方で、順番どおりに進まないこと、行き来すること、複数が同時に起こることも前提に置く必要があります。
臨床では“いま出ている感情がどの段階っぽいか”より、“何が失われ、何を守ろうとしている感情か”に焦点を当てると使いやすくなります。
つまり、評価よりも対話の補助線として使うのが安全です。

5段階の概要(超要約)

  • 否認:現実感が薄い/受け止めきれない(情報が入らない)
  • 怒り:不公平感・理不尽さ(他者や自分への苛立ち)
  • 取引:条件付きの希望(「○○なら…」)
  • 抑うつ:喪失の重さが前面化(気力低下・悲嘆)
  • 受容:現実を前提に生活を組み直す(感情が消えるわけではない)

このモデルが効く場面

  • 告知・再発・機能低下など「喪失」が明確で、感情が大きく揺れているとき
  • 家族が「本人の反応が理解できない」と混乱しているとき(共通言語になる)
  • チーム内で“心理面の共通理解”を素早く揃えたいとき
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フィンク:危機モデル(4段階)

モデルのポイント

フィンクは、危機状況から適応に至るプロセスを「衝撃→防衛的退行→承認→適応」の4段階で整理します。
このモデルの強みは、危機を“出来事”ではなく“心理状態の推移”として扱い、介入のタイミングを考えやすい点です。
衝撃期は情報より安全と安心が優先され、防衛的退行期は否認・逃避・怒りなどが出やすくなります。
承認期では現実が入り始める一方で、落ち込みや不安が強く出やすく、支援者側の伴走力が問われます。
適応期は「新しい価値観・役割・生活設計」が育ってくる段階で、具体的な成功体験の設計が効きます。
臨床では、段階名を当てることより「いま何を優先すると崩れにくいか」を決める道具として用いると実装しやすいです。

介入の目安(段階別)

段階起こりやすい反応支援の優先度
衝撃混乱、強い不安、呆然安心感、環境調整、短く一貫した説明
防衛的退行否認、怒り、回避、過度な楽観感情の受け止め、選択肢提示、境界線の整理
承認悲嘆、抑うつ、不安、自己評価の低下目標の再定義、小さな達成、役割再構築
適応現実を前提に動ける、試行錯誤生活設計、自己効力感、社会資源の接続
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ションツ:危機モデル(5段階)

フィンクとの違い

ションツは、危機反応をより細かく捉え、「最初の衝撃→現実認知→防衛的退行→承認→適応」と5段階で示します。
フィンクとの大きな違いは、「現実認知」が独立している点で、頭で理解できたとしても気持ちは追いつかない“ズレ”を扱いやすくします。
臨床では、このズレが「説明は理解しているのに、行動が変わらない」「同じ質問を繰り返す」といった形で見えます。
この段階を“意欲がない”と解釈してしまうと、関係が硬直しやすいのが要注意ポイントです。
現実認知期は、正しい情報提供に加えて「選べること」を増やすと、次の段階に進みやすくなります。
つまり、理解の支援と自己決定の回復をセットで設計するのがこのモデルの実用的な使い方です。

現実認知期で有効になりやすい工夫

  • 説明は“短く・繰り返し・同じ表現”で統一する(チームで言い回しを揃える)
  • 今日できることを「2択」で提示する(選択の負荷を下げる)
  • 感情のラベリングを支援する(例:「悔しさが強い日ですね」)
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コーン:障害受容モデル(5段階)

モデルの特徴

コーンは、突然の身体障害を“喪失体験”として捉え、受容までの心理過程を「ショック→回復への期待→悲嘆→防衛→適応」で整理します。
このモデルの肝は「回復への期待」が明確に入っていることで、希望が必ずしも悪者ではない、という視点を持てる点です。
回復への期待は、リハへの参加を支える一方、現実とのギャップが大きいと反動として悲嘆が深くなることがあります。
悲嘆は“やる気がない”ではなく、失ったものの価値が大きいほど自然に起こる反応として理解すると介入の質が上がります。
防衛は現実回避だけでなく、心を壊さないための自己保護でもあるため、急に剥がさず、生活の安全と尊厳を守りながら扱います。
適応は「元通り」ではなく「その人の新しい生活の組み直し」であり、役割・環境・活動の再設計が主戦場になります。

コーンが効く場面

  • 「治るはず」「前みたいに戻る」が強いケース(期待の扱いが中心課題)
  • 悲嘆が長引き、生活再建に踏み出せないケース(喪失の意味づけが必要)
  • 家族が“本人の希望”と“現実的な見通し”の板挟みになっているケース
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4モデルの違いを一枚で整理(比較表)

比較の要点

4モデルは、どれも「危機(喪失)→揺れ→再構築→適応」という流れを扱っています。
違いは、対象(死・障害・危機)と、段階の切り方(特に希望や現実認知の扱い)にあります。
キュブラー=ロスは感情の波を言語化しやすく、フィンクは介入のタイミングを設計しやすいのが強みです。
ションツは“理解と感情のズレ”を扱えるため、説明が通っているのに動けない局面で力を発揮します。
コーンは“回復への期待”と“悲嘆”を丁寧に分けるため、希望の扱いに繊細さが求められるケースで有用です。
結論として、患者の反応を評価するためではなく、支援者の関わり方を調整するために選ぶと、モデルが臨床で生きます。

モデル段階数キーワード臨床での得意領域
キュブラー=ロス5感情の段階感情理解・家族説明・共通言語化
フィンク4危機→適応介入タイミング設計・チーム連携
ションツ5現実認知理解と感情のズレの支援
コーン5回復への期待希望・悲嘆・防衛の扱い
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臨床での使い分け:評価より「関わり方の調整」に使う

よくある落とし穴

段階モデルを使うときに最も起こりやすい失敗は、「いま何段階か」を当てにいくことです。
当てにいくと、患者の言動を“型”に押し込めてしまい、本人の固有の意味づけが見えにくくなります。
次に多いのは、「受容=前向き」「否認=悪い」と道徳化してしまうことで、感情表出が止まります。
臨床で有効なのは、“この反応が出るとき支援者は何を優先すべきか”という運用ルールに落とすことです。
モデルは診断名ではなく、支援の優先順位を決めるチェックリストとして扱うと安全です。
その結果、本人のペースを尊重しつつ、生活再建に必要な行動が少しずつ増えていきます。

運用ルール(そのまま使える)

  • 衝撃が強い:説明は最小限、安心と休息、情報は紙で残す
  • 否認・怒りが強い:感情の正当化+選べる行動を小さく提示
  • 悲嘆・抑うつが強い:目標を下げる、達成を刻む、孤立を減らす
  • 適応が進む:活動と役割を増やす、社会資源へ接続する
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まとめ

障害受容は、一直線に進む“ゴールへの道”ではなく、揺れ戻りを含む“生活の再構築プロセス”です。
キュブラー=ロスは感情の波を言語化しやすく、フィンクは介入のタイミング設計、ションツは現実認知のズレ、コーンは回復期待と悲嘆の扱いが強みになります。
どのモデルも「当てはめる」より「関わり方を調整する」ために使うほど臨床で役立ちます。
患者の反応を“問題”として急いで修正するのではなく、“守りたいものがある反応”として尊重すると関係が安定します。
その上で、できることを小さく設計し、本人の価値(大事にしたい生活)に沿って活動と役割を組み直すことが、適応を支える核心になります。
モデルを共通言語としてチームと家族にも共有できると、支援の一貫性が上がり、結果的に本人の安心にもつながります。

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